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触​角​が​無​限​に​の​び​る​虫

by Aoi Tagami

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1.
『触角が無限にのびる虫』 田上碧 鼻から息を吸ったり 息が白くなるように ハァッと大きく、ハァっと大きく、吐き出してみたり 鼻から息を吸ったら 海の匂いがする夏の湿度が高い日、というのがあります。 夏の湿度の高い日、日、日、日のこと ここから少し南へゆけば陸が終わって海があるって 地図曰く そう ここから少し南へゆけば埋め立てられた海があるって 浜はなく 壁が立つ 船がいる 工場の煙突、煙、セミが鳴く夏は、見えないけど 海、波、騒ぐ 海、波、騒ぐ 見えないけど、聞こえないけど ああ、鼻から吸ったら海の匂い 湿度が高いからだろうな ああ、けっこう遠くの海からくる 島が終わる、海が始まる 見えないけど、聞こえないけど ああ、鼻から吸ったら海の匂い 湿度が高い夏なら ああ、鼻から吸ったら海の匂い 湿度が高い夏なら 冬は、ハァッ、と吐いたら息が白い 見えないはずの 息が白く 白い雲を 口から吐く カンカンに沸騰したヤカンみたいな気分で はっはっはっは、ふー 体の熱さがよくわかる。体の中の真っ暗から白、真っ暗から、し、ろ ーーーー…はく、息の色が、白く見える日が、冬は時々、ある。 あれは、体の中で温められた息の中の水分が、体の中にいる時はまだ気体だけど、体の外に出て、冷やされた時に水に変わって、白く見えるっていう、雲とか。湯気が白いのとだいたい同じ原理。 ヤカンの口から、ーーーーと、雲が吐き出されて行く。 ーーーータイマーをセットした炊飯器、ご飯がもうすぐ炊ける。 ーーーー毎朝、遠くの煙突から ーーーー空へ、のぼっていく、ゆっくりと ーーーーもっと上には、長い、ヒコーキ雲 ーーーー少しずつ、二酸化炭素の濃度が上がっていく。 ーーーー少しずつ、二酸化炭素の濃度が上がっていく。 さて。冬は時々、吐く息が白く見える日がありますが、夏には、たまに、海の匂いがする日が、 鼻から吸ったら海の匂い、がする、夏の湿度の高い日、というのがあります。 ここから南のほうへいくと、陸が終わって、埋め立てられた海。 その先に、まだ埋まっていない海がある。ここからその海は見えないけど、湿度が高い南風の日にはうっすらと、見えない海の匂いがする。 その土地は、どこにでもあるようなあまり面白みのない場所で、幅の広い道沿いにはずらりと背の高い松の林。 背の高ーい、松の林。春になれば坂を下ったところに並んで植わった桜が見事に咲く公園。 すっかりなくなったヨーカドーの跡地には大きな物流倉庫ができて、 まっすぐな道がどこまでも続き直角に交わり、車がみんなそこそこスピードを出してびゅーん、と走って行く。 ラーメン屋と、派手なパチンコ屋と、駐車場の広いコンビニ。工場。冷凍庫。倉庫。そういう、どこにでもあるような、 さびれた?というよりは、最近タイプを変えて新しい街になりつつあるような、そういう場所。 そこの、とある花壇の、 レンガを積んで形作ってある花壇の、手前の一つのレンガを持ち上げると、そこにはたくさんの卵があった。 白くて丸くてツヤツヤしたのが、ぎっしりと産みつけてある。 これまで、一度も日の光を浴びたことがなかったであろう小さな卵たちが、初めて日向に出た。 それは、ハサミムシの卵だった。 ハサミムシは、卵を産んでからそれが孵るまで、親が、虫にしては珍しいんですがつきっきりで面倒をみるらしく、だから、レンガを持ち上げて、今まで日陰だったそこが明るくなった瞬間にサッと隣のレンガの影へ隠れたのは、親のハサミムシだったと思われる。 ともかく、そこには、ハサミムシの卵があった。 その日は、その花壇の前にガキンチョ3人組が、男の子が3人、集まっていた。気になって見ていると、一人が、件のレンガを持ち上げて、この面を使って、卵を潰し始めた!笑いながら、ふざけて、遊びで。 ここからは、その音は聞こえない。でもあれは、ああ、あいつらあの白い卵をさては潰している!と気づいてしまうと、頭の中には、イクラをまとめて潰すような…、そんな音が、していただろうか。 イクラを潰す音ってどんな音だっけ。口の中で。 ハサミムシになりそびれた卵たち。白くて、つるんと丸くて、ツヤツヤとした。 白くて、つるんと丸くて、ツヤツヤとした。 みずみずしい、ナメクジ。 ナメクジがいる。池のほとりの湿った石の上に、白いナメクジがいたんです。 私は当時、小学生だったんですが、我ながら、なぜそんなことをしたのか、よくわからないんですけど、 近くにあった葉っぱを使ってそのナメクジを持ち上げて、池の上で、落としたんです。 そしたらナメクジは、白い体は、暗い水の底へスッと、あっけなく沈んでいきました。 彼は、いや、彼女かもしれない。ナメクジって性別がないらしいんですけど、彼は、全く抵抗することなく、 私が落としたままの姿勢で、ただ、沈んでいった。 苦しむ様子もなく、ただ、白い体が、ぽちゃん!と、落ちる水のように垂直に重力に従って暗い水の中をあっけなく沈んでいった。白い体は明かりを消すみたいに一瞬で池の底まで行って止まった、のだと、思うんですけど。 そこまでは、水の外にいるわたしからは見えず。 沈んで行った先には、深い深い、底。夜のような、底がありました。 とても暗くて、目がよく見えない。どうやらここでは目は役に立たなそうだ。 でも足が、重力にしたがって地面に接している感じがするから、多分ここは、地球のどこかだろう。 呼吸もできる。 体の奥のもっと暗いところへ、空気を送ることができる。 ここには、重力と空気がある。 少し、あたたかいような気がする。うっすらと、汗をかいている?目は諦めて閉じてしまった。 皮膚の感覚を信じるなら、足は靴を履いていて、体は服を着ている。 でも靴底のせいで、どんなところに立っているのか、今一つよくわからない。腕をのばしても触れない。 では、耳の感覚を信じるなら、 暗がりから音。 空気が、動いている。 手前の影が、一番暗い。 遠くの方が少しだけ明るくて、遠くがあるのがわかる。 遠くまで飛ぶなら この夜の空をぐーんと行きたい 高く明るく、高く明るく… 赤く赤く大きな火が 青く眠る夜の 遠くの山からのぼる、のぼる、のぼる、のぼるかな… 手前の影が、一番暗い。 レンガの下、池の底、ヤカンの中、石の下、タンスの後ろ、 閉じた口の中、手と手をあわせたところ 地面と靴の、接するところ。と、ここ。 この真っ暗と、その真っ暗が、あの真っ暗も、どの真っ暗も例外なく、全部が、ここで 溶け合って、まぶたの裏で夢とまじわる。 レンガの下、池の底、ヤカンの中、石の下、タンスの後ろ、 閉じた口の中、手と手をあわせたところ 唇を、あわせたところ! 目が覚めて、この暗がりから光のあるほうへ 喉を通って舌を過ぎて歯も過ぎて、そしてまた歌になるの 鼻から吸って、口から、吐く。 その唇のふちで、その日向で、島が終わる。海が始まる。

about

田上碧によるソロパフォーマンス
《触角が無限にのびる虫》全編
2020年8月21日、北千住BUoYにて収録

Aoi Tagami's Solo Performance
"A forever growing antenna from a one on the ground"

credits

released September 4, 2020

All Music & Lyrics & Performance by Aoi Tagami

Lyrics in English (PDF)
aoitagami.com/AForeverGrowingAntennafromaOneontheGround


Recorded by yoshikimasuda on 21th August 2020 at Kitasenju BUoY
Artwork by Ryo Uchida
Translated by Mitsue Kitagawa,Tomoko Sato

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about

Aoi Tagami Japan

vocal artist.

Aoi uses her own voice and words to explore “Songs”. She holds solo performance in a wide variety of venues, from the outdoors to conventional spaces such as theaters and galleries.

more info→
aoitagami.com


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